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さっぽろ雪まつりにも登場!悲しき王様が描いた夢の世界「ノイシュヴァンシュタイン城」の魅力とは【前編】

Sitakke

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こんにちは、Sitakke編集部ナベ子です。

国内外から来場約200万人が訪れる、札幌の冬の風物詩「さっぽろ雪まつり」。
74回目となる今年は、2月4日(日)から11日(日)までの8日間開催されています!

さっぽろ雪まつりにも登場!「ノイシュヴァンシュタイン城」の魅力とは

大通会場のなかでも注目度の高い展示といえば「大雪像」。
大通7丁目では毎年HBCが、雪まつりにおける国際交流を象徴する大雪像を企画しています。
今年のテーマは、「ノイシュヴァンンシュタイン城」。ドイツ南部に位置するバイエルン州にあるお城です。

ノイシュヴァンシュタイン城外観©DZT/Deutschland abgelichtet Medienproduktion

おとぎ話のアニメーションに登場するお城のモデルとなったともいわれるこのお城。
名前を知らなくとも、テレビや旅行雑誌などを通し、このお城を観たことがあるという人も多いのではないでしょうか。

一方で、この美しいお城の成り立ちには、理想の世界を夢見た王様の、悲しくもドラマチックなストーリーがあるということを知っていますか?

自身の夢の世界のために建てた美しいお城と、最終的に幽閉され、湖に身を投げることになった王様の生涯……知れば知るほど、きっとあなたもこのお城にハマってしまうかも!?

「ノイシュヴァンシュタイン城」の魅力を紐解く 【前編】悲しき王様が描いた、夢の世界

というわけで今回は、「ノイシュヴァンシュタイン城」の魅力について注目していきます

解説いただくのは、東京大学大学院で歴史学(ドイツ観光史)を研究し、現在はドイツ観光局広報を担当する大畑悟さん。

前編となるこの記事では、「ノイシュヴァンシュタイン城」の成り立ちを紐解きながら、お城の魅力についてご紹介いただきました。

「夢のような物語の世界を具現化したい」バイエルン国王・ルートヴィヒ2世が描いた理想郷

ノイシュヴァンシュタイン城外観© DZT/ Hans Peter Merten

ドイツを代表するノイシュヴァンシュタイン城(ドイツ語で「新白鳥石城」の意)。
その白鳥のごとく白く美しい姿は、アメリカの元祖ディズニーランドの眠れる森の美女の城(築1955年)に模倣され、一躍世界的に有名になりました。現在でもアメリカ・ディズニーランドの公式サイトでその事が明記されており、ディズニーランド側でもノイシュヴァンシュタイン城をアイデアの源泉としてリスペクトしていることがうかがえます。

夢とファンタジーの世界の象徴としてのお城

白亜の城は、夢とファンタジーの世界の象徴なのです。ノイシュヴァンシュタイン城の建設者バイエルン国王ルートヴィヒ2世(1845年‐1886年)もまた、自身の夢の世界を具現化するために建設したので、ディズニーランドの城とノイシュヴァンシュタイン城には共通する思想があります。

しかし大きな違いもあります。ウォルト・ディズニーはアニメ映画『白雪姫』や『眠れる森の美女』の世界を多くのファンが実感できるようにディズニーランドの城を建設しましたが、ルートヴィヒ2世は、劇作家・ワーグナーのオペラの世界を、自分だけが実感できるようにノイシュヴァンシュタイン城を建設したのです。

ノイシュヴァンシュタイン城の建設者バイエルン国王ルートヴィヒ2世(1845年‐1886年)

とはいえ王の死後、城は観光客に一般公開されましたから、結果として大きな違いはないのかもしれません。夢のような物語の世界を実感できる城を作りたいという発想は、19世紀と20世紀の時代の違いはあれど、多くの人が共感できる考え方であると言えるでしょう。

「騎士の物語の世界に住みたい」バイエルン国王が実感したかったもの

ノイシュヴァンシュタイン城外観(4月)© Satoru Ohata

ルートヴィヒ2世が実感したかったワーグナーのオペラの世界とはどのようなものだったのでしょうか。築城開始の前年の1868年5月に、ルートヴィヒ2世はワーグナー宛ての手紙に次のように書いています。

「私はペラト渓谷のホーエンシュヴァンガウ城址を、古きドイツの騎士城に忠実な様式で新しく建設させるつもりです。そこにいつか(3年後に)住むことを楽しみにしています。

・・・重要なのは、最も美しく、神聖で近寄りがたい、神のごとき友の栄誉の神殿だということです。そこには、世界の真の祝福と幸福だけがあることでしょう。窓から城が見える歌人の間は『タンホイザー』を、城の中庭や回廊、礼拝堂への道は『ローエングリン』を連想させるでしょう」。
(※『タンホイザー』『ローエングリン』=ワーグナーのオペラのこと)

この手紙で予告したとおり、城内には、ワーグナーのオペラの白鳥の騎士ローエングリンと騎士歌人タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦の絵画が何枚も飾られています。つまり中世以来語り継がれてきた騎士の物語の世界に住みたかったというわけです。

居間(白鳥の騎士の壁画)© DZT BSV/ Ernst Wrba

さらに詳しく、ルートヴィヒ2世の心象風景を表現していると考えられる城内絵画の内容を見てみましょう。まずは、城のコンセプトに最も重要な白鳥の騎士から。居間に飾られている絵画は、白鳥の騎士ローエングリンが、公位継承の危機にあった公女エルザを救うために白鳥の舟に乗ってブラバントに颯爽と到着したシーンです。高貴な姫のために危険を顧みず、強大な敵に立ち向かおうとする雄々しき若者の姿が、若きルートヴィヒ2世の理想像なのです。

つまりノイシュヴァンシュタイン城とは白鳥の騎士の城であり、救国の英雄、若き女性を救う勇者の世界なのです。そういうと、ルートヴィヒ2世に限らず、世界中の青少年が住みたくなるような物語の世界だということが分かりますよね?現代でもそのような英雄物語はアニメや映画の世界に満ち溢れており、古今東西普遍の願望なのです。

執務室(タンホイザーの壁画)© DZT BSV/ Ernst Wrba

次は執務室に掲げられているタンホイザーの絵画です。騎士歌人タンホイザーは、ヴァルトブルク城の姫エリザベートに恋するも、貧しい騎士の身では結婚はかなわぬと絶望し、女神ヴィーナスの洞窟に迷い込み、そこで美しい女神たちと愛欲の日々に溺れるシーンが描かれています。ある意味で若い男性の願望が表現されていると言えますが、この逃避的で退廃的なシーンは白鳥の騎士の勇敢なシーンとは明らかに違う方向です。恋する女性のために勇敢に戦いたいと思いながらも、現実の厳しさに怖気づき、安易な誘惑の世界に溺れてしまう男性・・・。ストレートな理想像とは違いますが、どこか共感できる屈折した理想世界でしょうか。

現実の政治外交の世界から少しずつ遠ざかり、山中の城に退避していったルートヴィヒ2世の屈折した願望が現れていると考えられなくもありません。城内には女神ヴィーナスの洞窟を模した人工洞窟も設置されており、それが重要なコンセプトであることは間違いありません。英雄のごとく勇敢でありたい、けれども現実は厳しく、逃避してしまいたい・・・そんなアンビバレントな思いが込められた城がノイシュヴァンシュタイン城なのです。

歌人の間(パルジファルの壁画)© Bayerische Schlösserverwaltung Rainer Herrmann München

最後に注目したいのが、歌人の間に掲げられているオペラ『パルジファル』(ローエングリンの父親)の一場面を描いた絵画です。聖杯城のアンフォルタス王は槍で受けた傷が癒えず苦しみ続けており、そこにパルジファルが現れて傷を癒す一縷の希望が芽生えるシーンです。ルートヴィヒ2世が共感を覚えたのは間違いなく苦悩する王の方でしょう。自分自身が苦悩する王様でしたから。そして自身が受けた傷を癒すために建てた聖杯の城こそが、ノイシュヴァンシュタイン城だったのです。

3つの絵画の内容は、ルートヴィヒ2世の若き日の理想像、そこからの逃避癖、そして苦悩し続ける現状を表しており、それはとりもなおさずノイシュヴァンシュタイン城に込められた願望、つまり理想の騎士の城、逃避の楽園、苦悩から救われる家を表しています。

俗世から隔絶された、物語の世界に没頭したかった

バイエルン州の州都・ミュンヘンの街並み©DZT/Dietmar Scherf

城内の絵画から城の主なコンセプトが分ったと思いますので、次に城の周囲に目を向けてみましょう。ノイシュヴァンシュタイン城を訪れるには、ミュンヘンから電車で1時間のフュッセン駅で降りた後、バスで10分の麓まで行き、そこからさらに徒歩か馬車で30分の道のりを行かなければいけません。

アルプスの山々と湖に囲まれた、ロマンチック街道の終着地フュッセン© DZT/ Michael Neumann

都会からは遠く離れた秘境なのです。中世に城があったとはいえ、どうしてこんな不便な所に住居を建てたのでしょうか?そもそもアルプスの山中に居城を立てること自体がコンセプトの1つだったのです。ワーグナー宛ての手紙に書いているように「神聖で近寄りがたい」ことが重要で、そうでなければ煩わしい政治外交の世界つまり果たさなければならない仕事の世界から逃れることができないからです。

ルートヴィヒ2世が、身の回りの世話をする近侍の顔に黒子の布をつけさせていたことは有名な話で、そうまでして仕事相手の顔を見たくなかった、現実の仕事を忘れて物語の世界に没頭したかったということです。それを実現する場所として、人里離れたアルプスの一角が相応しいと考えたのでした。現代風に言えば隠れ家的旅館や別荘のようなものでしょう。19世紀後半にはすでに鉄道旅行やハイキングが楽しまれており、城が敢えて人里離れた山奥に建てられた背景には、現代に通じる観光・ツーリズムの要素があったのです。

世界遺産に登録される?!~「ファンタジー世界のシンボル」としての側面

ノイシュヴァンシュタイン城外観©DZT/Florian Trykowski

世界的に有名なノイシュヴァンシュタイン城ですが、2024年現在、世界遺産には登録されていません。
そう言うとたいていの人が驚きますが、城や世界遺産に知識がある方の中には「古建築ではないから当然だ」という人もいます。ノイシュヴァンシュタイン城は中世の代表的な建築様式であるロマネスク様式を基調として19世紀に建造された城で、このような中世当時に建てられたものではなくそれを模倣した建築様式のことを歴史主義と呼びます。

つまり過去の模倣であってオリジナルな様式ではないということです。だからこれまで歴史的なオリジナリティを重視する世界遺産に登録されなかったとされます。しかし1994年以降に世界遺産の登録基準の見直しが行われ、近代産業遺産などの新しいタイプの世界遺産が登録されるようになりました。

歴史的にオリジナルかどうかというよりも、生きた文化的伝統(living cultural tradition)を重視するようになったのです。そのような流れもあって2015年に、ノイシュヴァンシュタイン城、リンダーホーフ城、ヘレンキームゼー城の3つの城をまとめてドイツ政府は世界遺産暫定リストに登録しました。
暫定リストとは、本登録ではなく、その準備段階にある遺産のウェイティングリストのことです。

ではノイシュヴァンシュタイン城の世界遺産登録の根拠はどのようなものでしょうか?詳細は筆者の過去の記事に書いているので、ここでは最も重要と考えられる登録根拠に絞ってご紹介します。

それは登録基準4「歴史上の重要な段階を物語る建築物、その集合体、科学技術の集合体、あるいは景観を代表する顕著な見本である」に該当する要素で、「19世紀は、退避(逃避主義、ロマン主義)と発展(テクノロジー、より良い世界)の緊張状態が特徴で」、「バイエルン王ルートヴィヒ2世は、過去と遠方の世界に没入できる無垢の場所(山、谷、島)、王国の辺境に、地上の楽園すなわちもうひとつの世界を創り出した」と主張されています。

そしてそのような「テーマ・ワールド」は、政治的な意図で建造された宮殿とは根本的に異なるオリジナリティを持っているというのです。つまりここで重視されているのは建築様式ではなく建築のコンセプトや世界観で、ノイシュヴァンシュタイン城は20世紀半ば以降「ファンタジー世界のシンボル」になっており、その「テーマ・ワールド」としてのオリジナリティが世界遺産にふさわしいということです。

ノイシュヴァンシュタイン城の魅力~見え方の異なるファンタジーの城

ノイシュヴァンシュタイン城©DZT/Jim McDonald

現在では最も人気の城となっているノイシュヴァンシュタイン城ですが、入城者数の歴史統計を見るとその絶大な人気が1970年代から始まったもので、それ以前はむしろフランス風の華麗な宮殿であるリンダーホーフ城の方が人気が高かったことが分かります。ディズニーランドの城のモデルつまり「テーマ・ワールド」の元祖と見なされるようになったことで、見た目華麗な宮殿の人気を凌駕するようになったのです。

ところで筆者が20代でノイシュヴァンシュタイン城を初めて見学した時、ディズニーランド張りのテーマ・ワールドの城にあまりいい印象は抱きませんでした。明らかに中世の本物の城とは違うキッチュな建物でしたし、なにより建設者が英雄になれなかった哀れな王様だったからです。

しかし40代になって再訪した時は全く違う印象を抱き、城から見える山岳風景や城内の焦げ茶色の板張りに落ち着いた佇まいを感じました。20代はローエングリンに共感する若者だった筆者も40代になると傷つき、苦悩するアンフォルタス王の気持ちに共感するようになっており、「英雄になれなかった哀れな王様」と見なしていたルートヴィヒ2世の無力感や逃避癖が理解できるようになっていました。一国の王でさえ思うように仕事ができず、夢とファンタジーの世界への逃避に救いを求めざるを得なかったのです。

今日、ノイシュヴァンシュタイン城を訪れる若者が抱くファンタジーは、男性であればローエングリンのような騎士の世界、女性であれば騎士を待ちわびるエルザのような姫君の世界でしょうか。心象風景ですから、老若男女、それぞれの願望や経験によって異なるファンタジー世界が見えてくる、それがノイシュヴァンシュタイン城の魅力です。

⇒後編:夢物語の世界に憧れた、孤独な王様の人生とは?現代人が共感できる「ファンタジー」としてのノイシュヴァンシュタイン城の魅力

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文:ドイツ観光局広報マネージャー・大畑悟
編集:Sitakke編集部・ナベ子

主要参考文献
ノイシュヴァンシュタイン城公式サイト

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