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9歳で失明 指先の感覚頼りに編み物60年 名張の井上さん

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棒針を動かしながら語る井上さん。右奥は盲導犬のドリーム=名張市で

「周りの存在ありがたい」

 子どものころに病気で全盲になった井上スズ子さん(68)=三重県名張市富貴ケ丘=は、失明する間際、編み物に出会った。根気強く続けること約60年、今では指先の感覚を頼りに、かぎ針や棒針を滑らかに操り、作品を生み出す。昨年12月に津市であった「県障がい者芸術文化祭」の手芸部門では、前後で異なる2通りの編み方を組み合わせた薄手のベストを出展し、初めて最高賞の県知事賞に輝いた。

県障がい者芸術文化祭で県知事賞を獲得したベストと賞状

 大阪に住んでいた7歳の時、目の病気を患って入院。視力が徐々に低下するなか、病院の女性職員が仕事の合間に大きな白いレースの袋を編んでいる様子を目にした。「奇麗やなぁ」。たちまち興味が湧き上がり、病室で付き添ってくれていた17歳上の姉に「私も編んでみたい」と訴えた。姉は「そんなの、目が悪いのに編まれへんよ」と初めのうちは話していたが、熱心な様子が伝わったのか、やがて基本的な編み方から教えてくれるようになった。

 井上さんは手術や入退院を繰り返した後、9歳の時に失明したが、編み物を続けた。14歳の時には盲学校中学部の家庭科の授業で、初めての完成品となるマフラーを作った。マッサージ治療の仕事に就き、名張市に引っ越してからも、カーディガンやショールといった小物からテーブルクロスのような大作まで、さまざまな品を手掛けた。

 具体的な作り方は、編む手順が文字や図で紹介された手芸本を使って学ぶが、井上さんの場合は、別居する5歳上の姉らの助けがあった。「1段目は鎖編み3つ」「次は細編みで」など、電話で本の説明内容を読み上げてもらい、忘れないよう電話口で復唱した自らの声をテープに録音後、点字に起こし、手順を記録していった。5年ほど前からは、伊賀市にある点字図書館に点訳を頼むことも増えているという。

 30代の時には、市内に住む編み物の指導者との出会いがあり、更に複雑で高度な作品にも挑戦するようになった。「このころから、人に見てもらえる場に自分の作品を出展するようになった」と振り返る。今回、県知事賞を獲得した文化祭には8年ほど前から出展を続け、2015年には編み込みセーターの作品で県議長賞を受賞していた。

「夢は個展」

 盲導犬のドリーム(雌、8才)と暮らす井上さんは現在、次なる作品づくりを始めている。「いつも助けてくれる周りの人の存在が、本当にありがたい。編み物は私にとって生きがいで、人に見てもらうことを励みに、これからも続けていきたい」と語る。いつか個展を開くのが夢だという。

2022年1月15日付811号2、3面から

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